焼けた空と同じ茜色に染まる教室に二人。

日直だった妹子は最後の仕事である日誌を書き終え、ぐっと背を伸ばした。
そして、視線を机に戻し小さく苦笑する。そこにはもう一人の日直であるはずの
曽良が机の半分を占領して昼寝の真っ最中だったから。


「曽良、曽良、起きてよ」
「……ん…妹子、さ…?」
「日直の仕事終わらせたからさ、帰ろうよ」


ね?と、妹子が曽良の僅かに乱れた頭をくしゃりと撫でる。
しかし、曽良は寝ぼけているのかぼんやりと妹子を見つめたまま動かない。


「曽良?どうしたの」
「……夢を、」


ぽつり、と曽良の声が漏れる。
それに妹子が首を傾げると、曽良は更に言葉を繋げた。


「貴方の夢を、見るんです」
「…は?僕の、夢?」


そうです、と曽良はこくりと頷く。


「毎日毎日、うたた寝の一瞬でさえも」
「はぁ…それで?」
「困ってるんです、貴方の影が僕の頭の中から離れてくれなくて」
「う、うん…ごめ、ん?」


伏し目がちにぽつりぽつりと言葉を紡ぐ曽良。
その内容を聞きながら妹子は思わず謝ってしまったが、
次第に気恥かしさに似たものが込み上げてくる気がして顔を逸らす。


「だけど、それじゃ僕、何もできないよ?」
「それはわかってます。でも、いつも貴方の事を考えている所為か、
 だんだん夢と現実の境目がわからなくなるんです」
「境目?」
「そう、境目。現に今だって何が夢で、何が現実かわからなくなくて…
 ……だから、」


そこで言葉を切った曽良は、真っ直ぐと妹子を見つめる。


「ねぇ、妹子さん」
「へ?な…に…?」


名を呼び、曽良の手が妹子の頬にそっと触れる。
その形をなぞる様に優しく、その感覚を確かめる様にゆっくりと。


「教えて下さい、これは【現実】ですか?」
「え…、――――――」


机越しに影が重なる。
長いようで、実際には一瞬の沈黙。

有り得ないほど近距離にある曽良の顔に、妹子は一瞬息を呑み、
そして次の瞬間に大きな音を立てて立ち上がった。
その勢いに椅子が倒れ、近くの机を巻き込んだがそんなことはどうでも良い。


「ちょ!?な、おま、曽良…!!!?」


何が起こったか時間差で理解した妹子は、
一気に熱の上がった顔で睨みつけるように曽良を見る。
が、その視線の先には見たことのないような顔で微笑む曽良がいて。


「答えてくれないんですか、妹子さん」
「〜〜〜…ッ!し、知らないよ!!ばかっ!!!」


何も言えなくなった妹子はそう叫びながら、荷物を引っ掴み教室を飛び出す。
そんな妹子の姿に曽良は珍しく噴き出すと、
机の上に忘れられた日誌を手に妹子の背を追うべく、立ち上がった。



「 愛してますよ、妹子さん 」



そんな一言を、誰もいなくなった教室の置き残して…―――





















る 



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