※ファイティング妄想で太←妹←曽です。注意。











何が起こったかなんてわからなかった。
否、未だに意味がわからなくて、ただただ呆然と立ち尽くす。


戦闘が終わって、前線に出ていた太子が剣を納めて。
勝手に突っ込んでいた太子を僕が怒って、振り向いた太子が笑って。
呆れながら僕もつられて笑った時、風が吹いて僕は思わず目を瞑って。

そして次に目を開けた時、既に目の前は赤く一転していたのだから。


「たい、し…?」


妹子の口から零れた声は震えていて、彼に伸ばした手も震えていて。
それでも必死で駆け寄ろうと動かした足は、すぐに止まった。


「何処へ行くんですか?」


後ろからかけられた冷たい声。
妹子が振り向く前に追い越され、視界に入ったのは曽良の姿。
その言動にも足取りにも動揺は一切なく、まっすぐとある場所へと進む。


そして、細い糸の絡む手で乱暴に掴んだのは、

血だらけの蒼いジャージを纏う、


僕、の、


「曽良ぁぁぁあああっ!!!!」


その瞬間、全てを理解した妹子は怒声と共に走り出していた。
隠し持っていた短刀を引き抜き、そのまま横薙ぎに振り抜く。

しかしその刃は曽良に届くことはなく、寸でのところで止められた。


「――!?曽良、お前!!」


腕や足にはいつ絡みついたのか分からない糸。
妹子の声にゆっくりと振り向いた曽良が左手を引けば、
更に強まった糸が僕から自由を奪い、がくりと膝が抜ける。


「曽良、太子を離せッ!…おい、聞いてるのか!?」


もがけばもがくほど、皮膚からは赤い玉が幾つも浮かび上がる。
だが今はそんなことに構っていられる筈もなく、声を張り上げ曽良を睨みつける。
しかし、曽良は妹子をただ見つめるだけで動かない。


「何とか言えよ、曽良ッ!!!」


それに更なる怒りを燃やす妹子が力任せに腕を伸ばす。
そしてその手が曽良の着物を掴んだ時、漸く曽良がゆっくりと口を開いた。


「貴方は、」
「…?」

「この男がそんなに、大切ですか」


意識がないのかだらりと力の抜けた四肢。ぽたりぽたりと音を立てて落ちる鮮血。
曽良より幾分か大きいだろう太子を、平然と持ち上げながら妹子に問いかける。


「当たり前だろ!?太子は僕の上司で、倭国の摂政で!」
「別にそんなもの、代わりなどたくさんいるでしょう?」
「そういう問題じゃない!とにかく太子を返―――っ、うあ…!」

「聞きたくないですね」


強い拒絶の言葉に比例するように糸が妹子の腕を締め付け、
曽良を掴んでいた手が緩む。その隙に曽良は妹子の手を抜けると、
掴んでいた太子を肩に担ぎあげ踵を返してしまう。


「曽良?!何処に行く気…?!!」
「何処だって良いじゃないですか、貴方には関係ないことだ」

「―――っ、曽良!」


幾ら手を伸ばしても届かなくて。幾ら声を張り上げても届かなくて。
悔しくて悔しくて、妹子の頬に涙が伝う。酷く情けない顔だと思う。
それでも叫ぶことだけはやめられなくて、必死で曽良の背に縋るように叫び続ける。


「赦さない、そんなの絶対に…赦さない!!」
「返せ、返して、返してよ!!僕の、大切な…ッ!」


曽良が足を止めたのは、その時だった。


「……大切な?」


地を這うような低い声が響いて、曽良が振り返る。
その瞳の奥には身の毛もよだつような冷たい殺意。


「大切な、何です?」
「太子は!僕の大切な、ひ」
「違うでしょう?彼は、貴方のモノではないのだから」
「ッあ、ぐ…!?」


怒りを宿した曽良は戻ってきたかと思えば、妹子の首を手荒く掴むと、
ぎりりと締め上げる。一方妹子は、息苦しさと覗き込むように近づく曽良の瞳が
一層恐怖を煽り、呻き声すら出すことが出来なかった。

それを様子を見ながら、曽良はついと唇を吊り上げる。


「貴方は、僕だけを見ればいいんですよ」
「な、に……っ、」
「僕だけを、見ていればいいんです」


「だから、」そう続ける曽良の瞳は今までとは違う色を灯す。
そんな曽良に妹子は驚き、目を見開く。


「そ、  ら   」
「だから…こんなモノ、いらないんですよ…ッ!」


曽良が声を荒げたみせた。刹那、その横を何かが一閃した。
とっさに距離を取った曽良の手が離れ、
同時に糸が解けた妹子がどさりと崩れ落ちる。


「…おや、邪魔をするとは無粋ですね芭蕉さん」
「妹子くんから離れなさい」
「僕に命令ですか?」
「いいから、早く!!」


既に新たな弓を番えた芭蕉が狙いを定め、曽良の返答を待つ。
その姿にいつもの弱気な芭蕉は無く、張り詰めた空気が流れる。


「まぁ、いいでしょう。それでは今度は貴方を迎えに来ますから」


それを壊したのは曽良。無表情で先ほどと同じように踵を返す。

しかし、一度だけ。
妹子だけに見える様な角度で振り向いた曽良は、酷く楽しそうに笑っていた。






「 楽しいゲームの始まりですよ。ねぇ、妹子さん? 」

















09.2.22 UP