映る
 景色


ブランコが揺れる。
子供みたいな大きな大人を乗せて、ゆらりゆらりと。


その姿がなんだかとても愛おしく思えて。
僕にも焼きが回ったものだと小さく笑って近づく。


「何してるんですか、こんなところで」
「また馬子様に叱られますよ」
「こんな大事な日に何をしてるんだ、って」


そう声をかけても返事はない。
ただブランコがゆらりゆらりと動くだけ。

だから、僕はいつもと同じようにその手を取ってやる。
この人の、聖徳太子の未来を願って。


「ほら太子、さっさと」
「妹子」


なのに、今日初めて聞いた太子の声は、掠れていて。


「私は、お前が好きだ」
「お前だけが、好きだ」


酷く僕の心を掻き乱すから、


「私は…っ、妹子を愛して…!」
「太子」


遮るように名前を呼んだ。
振り返って、跪いて、見上げる様に笑いかける。


「御祝言、おめでとうございます」




その顔は少し、ぼやけていた。








に映る









( 滲んで、歪んで、それでも貴方のいる世界は美しく )



09.01.30